三線の伝統的な七つの型の違い【見分け方】
知っている人は知っていると思います、三線には王朝時代から伝わる型がある、三線の型と言うのは三線の棹と呼ばれる木の部分の形が違うということです。
愛用の三線の型は?
型によって音は変わるの?
大好きな唄者が使っているあの三線の型は?
手が小さいので小さい三線が欲しい!
最初の一挺はどの型の三線を選べば良い?
三線に型が有ると聞いた途端、色んな疑問がでてくるのではと思います。
今回は三線の伝統的な型についての考察です。
目次
伝統的な七つの型 見た目の特徴と見分け方
知らない方の為に、まずは基本、沖縄の三線は大きく分けて、以下の七つの型に分けられます
真壁(マカビ)
与那城(ユナグシク)
南風原(フェーバル)
知念大工(チネンデーク)
平仲知念(ヒラナカチネン)
久場春殿(クバシュンデン)
久葉ぬ骨(クバヌフニ)
正直、この七つの型の名前を初めて見たら、特に内地で暮らす我々にとっては、こうしてふり仮名でも無ければどう読めば良いのかも判らないでしょう。
それぞれの型の名前、これは琉球王朝時代の三線作りの名人の名前が付けられています、真壁さんが作った真壁型、与那城さんが作った与那城型、そんな感じです。
「三線には七つの型がある」と言うことは、今の時代、ネットで検索でもすれば、普通に目にすることかと思うのですが、この七つの型についての書かれていることは、どれも似たりよったり、しかもある程度三線のことを知る人で無ければ良くわからないと思います。
資料などは、もしかすると、戦争で失われてしまったのかも知れませんし、
各三線職人が受け継いできた情報を纏めると言う研究、議論などは、一部の研究者の先生方だけの物に留まり、三線がまだまだマイナーな楽器だと言うことだと思ってます。需要が無いと言うことです。
正直、型とか三線始めたばかりの方にはどうでも良い話だと私自身思ってるし、実際に初めての三線購入の方に、お値段の説明はするけど、型の説明をしたことは一度も有りません。
特に内地に暮らす我々にとっては、七つの型を一同に並べ、見比べ聴き比べ、実際に音を出す機会など、かなりハードルが高い話で、今回は、お付き合いの有る三線職人さんや先輩方に聞いた各型の見分け方や音に付いてなど、現時点で理解している範囲で、纏めてみました。
何かのお役に立てれば幸いです。
真壁型(マカビ)
流通する三線の半数以上がこの真壁型の三線です。実際に初心者用として販売されてる三線は全部この型、もしくは真壁を真似た物でしょう。
これほど真壁型が流通する様になった理由は、後述しますが、七つの型の中でも、真壁は特にバランスが良い音が鳴るということに加え、「開鐘」(ケージョー)と呼ばれる三線の名器が関係します。
細身の棹、糸蔵の真ん中辺りから緩やかに曲がる天の形が美しい三線です。
通常の真壁に比べて天の反りが大きいタマイ真壁と呼ばれる亜種型も有ります。
開鐘(けーじょー)三線とは
王朝時代の話、三線作りの名工、真壁型を作る、真壁里之子(マカビサトゥヌシ)の作った三線の弾き比べ会が行われました。
弾き比べが始まり、時間が経つに連れ、大方の三線は音色が枯れて行ったのに、夜明け六つ時に撞く鐘の様に遠くまで響き、いつまでも美しい音を奏で続けた三線が五挺、この三線が五開鐘と呼ばれ、良い音を奏でる三線を「開鐘」と呼ぶようになりました。
五開鐘の中でも最高峰と言われる、盛嶋開鐘は戦火を免れ、1982年に沖縄県に寄贈され、現在は沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)で保管されています。
真壁型で、更に王家所有であった三線で無ければ開鐘とは呼ばず、真壁型が多く流通している理由の一つとして、開鐘にあやかって、と言うことが挙げられるのでしょう。
与那城型(ユナグシク)
真壁型に続いて利用者が多いのは、「ユナー」とも呼ばれる、与那城型。
真壁と握り比べると判りやすいのですが、握った感触が太めの棹で、琉球古典音楽の奏者に愛用者が多い型です。
ユナーは糸蔵が長いなど見た目の特徴も多くて、見分けも付きやすく、棹を胴から外すと一目瞭然、画像の赤丸、側面に●穴が3つ開けられてるのを確認できれば、作成者はユナーを作ったんだと言えます。
さらに、ユナーは小与那型(クーユナー)、江戸与那型(エドユナー)、佐久川与那型(サクェカーユナー)、鴨口与那型(カモグチユナー)と細かく分類されます。
この辺りの話になると、明らかに天の大きさが小さなクーユナーぐらいは何となく見分け付きますが、いち愛好者の我々にはもはやお手上げです。
沖縄の地に行って、それなりの演者が集まる場所に行っても、細かく分類されたユナーの各種を見比べることなど難しいだろうね、とは古典の先生談。
知念大工型(チネンデーク)と平仲知念型(ヒラナカチネン)
がっしりとした印象の知念大工型、見分けるのは割と簡単で、画像ではちょっと分かりづらくて申し訳ないですが、天と鳩胸にまっすぐ稜線が走っていると言う特徴が有ります。赤線を弾いた部分です。
知念大工の知念さんの弟子、平仲が作った三線が平仲知念型です。平仲知念は知念大工でしょ、と言う意見も有るぐらい、職人が違えば同じ知念大工でも色んな部分が違ってくるといい、この両型を我々が見分けるのは正直不可能かなと思ってます。
久場春殿型(クバシュンデン)
真壁型と並べると、違いは一目瞭然、久場春殿型は、こうして並べると天こそ小さく見えますが、大型な三線で、天は平たくカーブも殆ど無し、棹は鳩胸に近づくに従って太くなります。
とは言え、通常演奏するポジションの太さはそれ程でもなく、ユナー型の方が太く感じる個体も少なくありません。
胴を外すと棹の心の付け根には段が付けられ心の正面には▲穴が一つ有ります。
割と見分けやすい型だと思います。
久場の骨型(クバヌフニ)と南風原型(フェーバル)
この久葉の骨型と南風原型の見分けが難しく、一番古い三線の型だと言われるのがこの画像の南風原型。
久場春殿型の作者、久場春殿が作ったもう一つの型が久場の骨です。大ぶりな久場春殿型と対称的に七つの型の中では一番小ぶりの三線だと言われます。
胴も他の型と比べると小さいことが多いのがこの二つの型。
南風原は、拝領南風原型(ハイリョウフェーバラー)と翁長親雲上型(オナガペーチン)に分けられると『沖縄の三線 <沖縄県文化財調査報告書>』には有りますが、ユナーと同じく識別不可能。
この二つの型を並べると久葉の骨が一回り小さいのが一般的だと言われるものの、これもまた職人AさんとBさん、Aさんの作った久葉の骨がBさんの作ったフェーバルよりも大きい、見たいなことが有ります。
職人さんに話を伺ったことがありますが、南風原型にも本来は心の正面に●穴が三つ開けられているそうですが、これも職人さんの考え方ひとつで、穴の開けられていない棹も実際にフェーバルには多くて、南風原型は正面に●穴三つと言う決まりがあれば、見分け易いのにと笑っておられました。
同時に、南風原ほど作成者のオリジナルな棹が多く見分けの付きづらい型は無いとも。
見分け方の纏め
色んな型の三線にふれる機会の少ない内地に暮らす我々にとって、まず見分け易いのは、以下の「五つの型」でしょう。
・真壁(マカビ)
・与那城(ユナグシク)
・久場春殿(クバシュンデン)
・南風原(フェーバル)か久葉ぬ骨(クバヌフニ)
・知念大工(チネンデーク)か平仲知念(ヒラナカチネン)
まずは、天の部分が綺麗なカーブカーブを描き鳩胸が盛り上がっていたなら真壁か与那城か知念大工でしょう。
その中で、天の部分と鳩胸に稜線が見られたら、知念大工か平仲知念です。
全体的に小振りな感じで、天が扁平だったりすれば、南風原か久葉ぬ骨です。
棹を外し確認できるなら、●穴が三つ、心の側面にあれば与那城、正面に▲穴が一つ、心に段差が作らていたら久場春殿、
糸蔵が長く見えて、ミージルを 超えてカーブがスタートしていたら与那城かも、
ウージルとミージルのカラクイがハの字ではなく平行近い感じに並んでいたら与那城かも、
心の形が正方形なら真壁かも、長方形なら与那城かも、
棹を握った感じが太ければ与那城かも、
「かも」が多いのは、ハイブリットな三線も少なく無いので断言出来ないと言うことになってしまうのと、職人によって「太い・細い」「大きい・小さい」は違うので判断できない、と言うことです。
まず、入門用と呼ばれる新品の2~3万円の三線に与那城は流通していないですから、意識せずに入門用を手にした方の三線は、まず真壁を狙って作られたものでしょう。
それが出来ないからネットで調べてるんだよ、と言われそうですが、当たり前ですが、三線屋ーや職人に尋ねるのが一番確実、と言うか、製作者が○○型だと言えば○○型の三線だと理解するしか無いと言うこと、
こちらの画像は、両方とも久葉春殿の三線なのですが、職人が違えばこれだけ違う、見慣れてくると、天の大きさ、厚み、微妙なカーブの違いが判るようになります。
七つの型の音の特徴
各型の音の特徴について、例えば「真壁の音」と言うテーマ一つ取り上げて語った所で真壁の音は○○だと断定することなど、いち愛好家の我々には抽象的な話すぎると思ってます。
真壁の音と言うのがあると、職人さんの話を聞いたことがあり、確かに、腕の良い職人さんは○○型の音と言うイメージを明確に持って三線を作っていることと思いますが、
真壁型と言っても、これまで書いた通り、職人によって微妙に形は違います。
棹の型以外にも、棹の材質、さらにチーガであったり、皮の張り方であったり、もちろん弾き手の技量も加わって音は作られます。
と言うことで、我々が音について知ることが出来るのはここまで、三線を選ぶ際には、出来る限り三線に触れて良いと思った音のする三線を求めるのが一番かと。
ただ、一般論として、大型の知念大工や与那城、久葉春殿はしっかりした太い音がして、小型の南風原や久葉ぬ骨などは柔らかな優しい音、真壁はバランスの良い音、そんな傾向は有ると感じてます。
真壁が多く流通する理由の一つは、このバランスの良い音だというのは間違い無いでしょう、初めて三線を触る方におすすめするなら、バランスが良いと言うのは判りやすい筈ですから。
三線音楽には、民謡と琉球古典、沖縄ポップスとそれぞれのジャンルで、好んで使われる型の傾向と言うのもあると感じています。
古典の演者で南風原や久葉ぬ骨などを使ってる方を自分は見たことが無いんで、やはり小振りの三線は古典に求められる音では無いと想像出来ます。
民謡では、特に女性が南風原や久葉ぬ骨と言った小振りの三線を持つ姿はよく見られますし、沖縄ポップスなどは、三線にマイクを仕込むケースも少なく無いので、裏側の皮を張らないなど、一風変ったた三線も目にします。
その他の型
7つの型以外にも色んな型は存在します。これって真壁なの?ヨナーなの?見たいなハイブリットな三線は少なく無いですし、
よく知られるな職人、又吉真栄氏のマテーシ千鳥、上原正男氏のいーばるなどは七つの型以外の銘器として知られます。
その他にも村の大工さんなど手先の器用な者が作った三線なども、一昔前には沢山あり、今でもそんな三線を目にすることは少なくありません。
まとめ【結局 お財布と相談して好きな型を持つのが正解】
「じゃぁ、どの型が初心者は選べば良いの?」と言う答えは、気に入った三線、予算内で手に入る三線を持てば良い、と言うか、持つしかありません。
例えば、民謡をやりたいって言う女性の方が小ぶりの三線が良いってことで、久場の骨や南風原が欲しい、しかも初心者セット価格の3万円ほどで、と言う要望があったとして、その値段で久場ぬ骨や南風原が流通してるか?と言うと、ちょっと難しいでしょう。
男らしい見た目の知念大工が良いと言っても、同じく初心者価格の知念大工は見たこと有りません。
真壁以外の型を求めるならば、それなりの金額を出さないと手に入らない、それぐらい、真壁型の流通が初心者用から名人が使う三線までカバーしていると言うことです。
正直、三線の型と音に付いてなど、三線歴の浅い自分たちの与太話の中から話せるのはここまで、これ以上踏み込んだ話など出来るはずも無いのが本当の所です。
以下の本なども面白かったですよ、こういうフィールドワークは、やっぱり現地の方ならではの考察が楽しめます。
こうして、書物に触れたり、先輩方の三線を沢山見たり触れたり興味を持つことで、何時かもっともっと型について判る様になるかも知れません、三線にはこういう楽しみ方も有ると思ってます。
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